TK from 凛として時雨 Studio Live for “SAINOU”を観て

4月15日にTK from 凛として時雨は約3年半ぶりのフルアルバム“彩脳”を発表した。それに伴うレコ発ツアーが過去最長の11公演予定されていたが、この配信があった8月8日の時点では無期限の延期とアナウンスされていた。

フルアルバム発売以降、テレビ番組への出演やYouTubeチャンネルTHE FIRST TAKEでの配信などプローモーションを含めた活動のおかげで演奏を見られる機会が多くあった。レコーディングとツアーのリハーサルの様子をインタビューと共にまとめたドキュメンタリーが5月22日に配信されており“彩脳”は、石田スイさん、又吉直樹さんをはじめ、様々な才能あるミュージシャンとともに作り上げた作品なのでその厚みを充分に感じられるものであったが、ライブの様子を配信するのは今回が初めてである。

 

自宅でライブ映像を観ることはライブの代わりにはならない。音圧で細胞が揺れ音の粒を全身で受け止める非日常。それらを体験する環境以外にもライブはとても特別な場所でそれが叶わない現状どう自分の気持ちを作るか葛藤があったが、TKさんの音楽に対する姿勢を信頼しているので、真剣に受け止める為にも部屋の生活感を消して身なりも整えて音楽だけに向き合えるような空間を作った。

 

配信開始の時刻、明かりを消して画面を覗くと、そこには限りなく暗いスタジオで演奏するTK from 凛として時雨のみなさんの姿が。TKさんがスタジオでリハーサルするとき集中するため最小限の明かりだけで演奏していることを思い出した。正確に焦点を当てるのではなく手ブレなども含め多くのカメラでメンバー全員の超絶技巧を細かく狙う手間のかかった編集、音質の良さ。ライブと配信の違いについて思考を巡らせ、TKさんらしく人に届けるものへの責任みたいなものを感じて胸がいっぱいになった。

 


1曲目は「Fantastic Magic」‘トキ make it’刺してくる元祖ブチ上げ曲にして僕と君にドキドキさせてくる。花火が上がったかのような高揚感から、2曲目「kalei de scope」。まさにいま画面というレンズ越しに奇跡を覗き込む私たちのようで‘届くかな’のリフレインが切ない。3曲目「flower」。ここで万華鏡のようにカラフルな光の粒がくるくる回る照明の演出。flowerはTKさんご自身のことだと思っているので、万華鏡を覗いた先にTKさんがいて‘君に会えた’って言ってくれていると思った。ここまで配信でライブを観てる人たちへのメッセージのようだと思った。
4曲目「インフェクション」は今回ピアノを弾くちゃんMARIとの共同作。“彩脳”に付属している歌詞カードが縦書きなのが印象的。手紙のように一対一の空間。TKさんの深淵に入り込むよう。魔法が溶けたりあの日のプラスチックなど前の3曲からの対比と現在。
5曲目は「鶴の仕返し」。光の粒が羽のように舞う演出。楽器が重なる部分がサビだけだったりギター弾く部分も少なめ。音源では叫ばないところでシャウトしたり、ライブでの初めて演奏された2曲なので興味深かった。前曲からさらに意図を塗り重ね深くへ導くようでもあり。
5曲目「copy light」。ライブで何年も演奏されていた曲だけど、又吉さん監修により輪郭がはっきりとして伝わる曲になったのではと思う。ちょうどコロナ禍で混乱が始まったときに先行音源とMVが発表されて自分的に心の支えになってくれたので思い入れが深い。バンドサウンドだと熱量がある。吉田一郎さんよっしゃー!からの7曲目「凡脳」。音源にはないバイオリンが入るアレンジ。ユニゾンも相まって3分弱の緊張感。歌唱が終わってカメラが天井を仰ぐのとても良い。この流れから自分自身の感性で掴み取ることの焦燥とか大切さみたいなものを受け取った。
ここからアニメタイアップ曲が続く。
8曲目「蝶の飛ぶ水槽」。暗いスタジオに青の照明で仄暗い水の底にいるよう。バイオリンもギターもベースも不気味さ極まる音。ピアノ速弾きも良い。この曲もライブで初めて演奏される曲なので、配信でフル尺解禁した時に衝撃的だった間奏の不穏さどうなるのだろうと思ったけど、ぞっとするほど怖かった。8月とは思えないほど気温が低い日だったので仮想体験的ではあったが、ライブハウスならもっと冷んやりしたのではと思った。
9曲目「unravel」。いま聴くとさらに違った意味で聴こえる。YouTubeのホームライブでのBOBOさんが素晴らしすぎてここでもあの動きしてるとつい見てしまった。間奏で点滅するフラッシュが音と乖離してゆっくり動いているような映像。‘忘れないで’のシャウトも鬼気迫る。10曲目「彩脳-TKside-」アルバムに収録されているのは石田スイさんが歌詞を書いたもので、こちらはTKさんが東京喰種:reのために歌詞を用意した楽曲。佐藤帆乃佳さんのバイオリンの速弾きから始まりカメラもバッチリアップでいいぞ!と燃えた。キメが多くてその度に楽器ごとに抜かれていてカメラワーク最高。配信で聴いたものより音エグいし完成度も高くて何度も繰り返し観てしまう。
11曲目「P.S. RED I」。スパイダーマン:スパイダーバースの日本語版テーマソング。昨年のツアーで会場のお客さん全員がブチ上がった熱い曲。初めスパイダーマンを思わせる赤い照明がマイルスがビルの上から思案するタイミングで青に変わり、覚醒するタイミングでまた赤い照明に切り替わる。光の粒が高速で回転し夜のNYを疾走するような演出。ほんと格好良い全人類観て欲しい。
12曲目「memento」。この曲はタイアップではないけれども、東京タワー出てくるけどスパイダーバースの主人公マイルスを思い浮かべてしまったり、都会のなかで孤独を感じる様子はコロナ禍で引き籠るしかない人たちとも重なると思った。美しくも叫びながら歌う姿にTKさん楽曲は音源も素晴らしいけどライブだと芯の強さとか確固たるものを感じなあと改めて思った。
13曲目「katharsis」。東京喰種のオープニング曲。LoveMusicでフル尺演奏されたのも記憶に新しい。主人公の心情を描いた曲だけど、観ている人の気持ちに寄り添ってまた会おうと語りかけているようにも感じられた。特に最後カタルシスからのカタルシスは閃光のように眩い光を感じた。
バシッと終わって最後に「TKでした。ありがとうございました」と早口で言ってMCがなかったことに気づいた。普段のライブでも演者がステージを去るときギターのハウリングがずっと鳴っているのだけど、客出しSEがエンディングクレジットと流れるなかでギターのノイズがバックでずっと鳴っていて自然に止まるまで長めに聴けて、ライブが終わってすごいものを観てしまったと打ちのめされながらも心が熱いあの気持ちになった。

 


集中して観ていたからなのか画面越しにも演奏の熱量を受け取れたからなのか、試聴後、身体中が疲れていて、この感じライブ後に味わうやつと同じだと不思議な気持ちに。この音楽をその場で聴けないことは悔しいけど、配信でも細かく演奏の様子映してくれていたりスタジオでライブしたものを磨き上げてくれたこともライブの代わりではなく次に会える日を願いながら作ってくれたように感じられて、とても晴れやかな気持ちになることができた。色々長く書いてみたけど、私が好きな人たちが超絶格好良いってことを記録しておきたかったのかもしれない。

試聴中荒ぶる気持ちをペンギンにぶつけてしまったのでお詫びにお刺身お供えした。

 

この投稿の後、簡単にまとめたものを音楽文に掲載していただきました。
http://ongakubun.com/archives/16731